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リューン枯れ葉通り(後編)

 光の橋は霧の中を対岸に向け真っすぐに伸びていた。

 その儚げな印象とは裏腹に、踏んだ足へ返ってくる感触は石造りの橋と遜色ない。
 やがて『烈火と成る者たち』も、恐怖心より好奇心が勝ってきた。

「なんだか天に昇ってくみたいな気持ちだぜ」

「止してくださいよ縁起でもない。
 こう周りが真っ白だと、気持ちは分からないでもないですが……」

 霧の中を進んでいく一行。
 下から眺めたらどう見えるのだろうか、とふと誰かが疑問に思った。

 やがて霧が薄らいでいく。
 気づけば硬質でありながら表面は滑らかだった足元の感触が、ごつごつとした石畳のものへと変わっていた。

 霧が晴れる。
 一行は対岸へと到着していた。

「ここからはごく普通の石畳の道のようだな」

 シルバが地面を確かめる。

「無人島に舗装された道がある時点で普通とは言い難いけどね。
 でもこれで決まりだね」

「はい、間違いなくこの島には人のいた形跡があります。
 つまりは、何らかの遺跡というわけですね」

 一行は石畳の道を進んでいく。

 舗装された道以外にめぼしいものはない。
 植生や地質そのものは今まで調査してきたものと同様だった。

 そしてその道の先に建物の輪郭が見えてきた。

「あれは、教会?かな?」

 ホークがユーフェへ訊ねた。

「ええ、驚きました……。
 聖北の教会に間違いないと思います。
 ですが、こんなところに教会があるなんて話は聞いたこともないです。

 ……どうやら今は使われていない建築様式のようですね。
 はっきりと時代は分かりませんが、古いものであるのは間違いないようです」

 建物――教会は霧を纏い浮かぶように存在していた。
 その厳かな外見は失われた神秘を体現していた。

 一行は逸る気持ちを抑えつつ建物に近づく。
 入口の扉は古く、鍵は地面に錆落ちていた。

「開けるぞ――」

 壊さないよう慎重にシルバが扉を開く。

 そこは神聖な場所だった。

 目の前に広がったのはかつては絢爛だったであろう礼拝堂の姿だった。
 大きなステンドグラスが眩いくらいに辺りを照らし出す。
 一歩踏み込むと埃が舞い上がり、途方もなく長い時間人が訪れていなかったことを示している。

「これは流石に――」

「ええ、言葉も出ないわね……」

 『烈火と成る者たち』の中には決して信心深いとは言えないものもいる。
 しかしこの場においては誰もがみな、この教会へ畏敬の念を抱いていた。

 一行は静かに辺りを眺めた。
 教会の中は荒れ果てていたが、ところどころにかつての面影を残してた。
 例えば正面に安置された巨大な彫刻のモニュメント。
 その手前には祭壇が設けられていた。

「祭壇の上……あれって棺ッスかね?」

 プリムラが祭壇の上に捧げられるように置かれた棺に気づいた。
 近づいてみれば、ごく普通の木製の棺の様だった。

「何か書いてるッスよ。
 えーと……」

 目を細めて文字を読み取ろうとするプリムラ。

「読めるのか?プリムラ」

「読めないッスよ?
 ユーフェさん、パスで」

「これも随分古い時代の文字のようですね。
 おそらくはこの教会が建てられたときに使われていたものでしょう。
 ……ちなみに私も読めませんよ?」

 その場の全員の視線がクラリスに集中する。

「オーケー、任せて」

 クラリスが棺の文字を読み上げる。

 “――偉大な神父 イゴリアス・トッド かの地へ旅立つ”

 棺にはそう書かれていた。

「聞いたことのない名ですね……」

「私も。古すぎるのか、あまり有名じゃなかったのか……」

 何の資料もない状態ではクラリスもユーフェもお手上げだった。

「どうやら鍵も罠もなさそうだぞ。棺なのだから、当然だろうが……。
 中を確認してみるか?
 この教会の由来に関しても、何か手掛かりが見つかるかもしれん」

「棺を開けるんですか。
 罰当たりではないでしょうかね?」

「でもここまで来たら、最後まで見届けないといけない気もするよ」

 棺を開けるべきだと主張するホーク。
 しかし果たしてそれが正しいことなのか、他のメンバーは決めあぐねていた。

 そんな中、タントが口を開いた。

「……ちょっと待ってくれ。
 その棺、妙に嫌な気配がしやがるぜ」

 一行が棺に注目する。
 古めかしいこと以外はごく普通に見える棺だ。

「開けたら最後ここから生きて帰さねえ、そんな“意思”を感じる。
 古代の呪いか、はたまた神罰かは分かんねえけどな。

 ――よっと」

 意味深な言葉をつぶやきながら、タントは棺の蓋を開いた。

「なんで不吉なこといいながら開けちゃったの!?」

「あれ、開ける流れかなーっと思ったんだけどな。
 ま、呪いだの神罰だのはあらかじめ覚悟を決めときゃなんとかなるさ。

 それで、中身はなんだ?
 トッドさんとやらの遺産でも入ってりゃ儲けもんなん、だけど、な……って……」

 棺の中身を見たタントの表情が変わる。

 少年の瞳に映ったのは黄金の輝きだった。

 眩いほどの金。

 大量の金塊。

 ぎっしりと詰まったお宝。

 棺の中には、普通に生きていてはお目にかかることはないであろうほどの山ほどの金銀財宝が詰め込まれていた。

「なんじゃこりゃあああ!!」

 開けた本人であるタントの叫び声が荘厳な礼拝堂へ響き渡った。

「ヒャッハーーー!!
 とんでもないお宝ッス!!」
 
「あわわわわわわわわわわわわふぅ」

「大変!ユーフェちゃんがおかしくなっちゃった!」

「……」

「これは、すご……」

 六者六様の反応を示す『烈火と成る者たち』。
 先ほどまで教会に感じていた敬意と畏敬の念は暴力的なまでの黄金に塗りつぶされた。

 全員が落ち着きを取り戻すまでに、数分の時間を要した。

「……これだけの財宝、一度では持ち帰れまい。
 持ち帰るならば今は一部だけだろうな」

 一番冷静なシルバが言った。
 しかし彼も黄金を前にして普段より落ち着きがない様子だった。

「でも、いいのかしら。
 タントくんも言っていたけど、バチがあたるんじゃないかしら……」

「大丈夫ッスよ!
 多少運が悪くなっても、この量のお宝なら埋め合わせできるッス」

 反対するものもいたが、結局シルバの言う通り一部だけを持ち帰ることにした。

「ところで地図はどう?
 お宝を見つけてつい興奮しちゃったけど……」

「えっと……うん。
 ここが最後の場所だったみたいね。
 地図は全部埋まったようだし、依頼は達成ってことでいいんじゃないかしら?」

 クラリスが几帳面に書き込まれた羊皮紙を広げる。
 確かにこの島の全貌がそこに表されていた。

「よし、じゃあ帰るとするか。
 リューンに帰ったら、残りの宝をどうやって運び出すか考えようぜ」

 『烈火と成る者たち』は教会を後にした。

「……?」

 教会を出るときに、プリムラは首の後ろに何か妙な感覚を覚えた。
 一度だけ、誰もいなくなった礼拝堂へ視線を向ける。
 棺が開いていること以外、そこは入ってきた時と同じ状態のままだった。

「どうしたー、プリムラー?
 早く来ねえと置いていくぜー」

「あ、ちょっとちょっとタントさん置いてかないでー!
 すぐ行くッスよ!」

 奇妙な感覚を気のせいだと断じて、プリムラも後を追った。

 光の橋がいまだ健在なのを確認し一安心した一行。
 来た時と同じように、霧の中へと足を踏み入れる。

「それにしても、謎を解明するために行ったのに、これじゃああべこべだ。
 もっと大きな謎を見つけてきちゃったわけだ」

 橋を渡りながらホークが誰に向けてでもなく呟く。

「そうですね。空の棺の謎に、イゴリアス・トッドという人物の謎。
 棺に刻まれていた文章も謎のままです。
 『偉大な神父 イゴリアス・トッド かの地へ旅立つ』でしたか」

「ええ、一応メモをしてきたわ。
 かの地っていうのはどこのことなのかしら」

 ユーフェは往路と同様にクラリスの裾をぎゅっと握りしめて歩く。

「昔の人間みたいだし、もう生きちゃいねえ……んだろうな。おそらく。
 まあ棺の主が神父のだろうと娼婦のだろうと宝は宝だ。
 頭使うのは学者の仕事で、俺たちの仕事は足を動かすことだ。だろ?」

「タントの言う通りだ。
 今回の仕事に関しては、体を動かした分以上の見返りがありそうだがな」

「ははっ、違いねえ」

 タントはバシバシとポケットを叩きながら笑った。
 そこには宝の一部が詰まっている。
 これだけの量でも、今回の報酬の倍以上は望めるだろう。

 報酬の使い道を考えながら一行は歩を進める。
 光の橋を渡ることにもすっかり慣れてきていた。

 割のいい依頼だった――。
 誰もがそう思っていたころ、突如として異変が生じた。

 それは『烈火と成る者たち』が橋の中ごろに差し掛かった時。

 ――バンッ!!
 はるか後方、教会のあった丘から何かが弾けるような音が聞こえてきた。

 次いで、遠雷のような重低音がゴロゴロと響く。

「地鳴り……!?
 これってもしかして……!!」

「遺跡が崩れてる――!?」

 次の瞬間、橋がガタガタと揺れ始めた。

「キャァア!!」

 ユーフェが叫び声をあげてクラリスにしがみついた。

(対岸ごと崩れているとすれば、この橋も無事ではすまん――!)

 シルバは焦りを覚えながらも状況を確認しようとする。
 しかし振動は大きさを増していく一方で、辺りに立ち込める霧が正常な判断力を低下させる。

 もはや一行はパニック寸前だった。
 光の橋という常識の外にあるものに身を預けているということが不安感に拍車をかけていた。

「みんな、姿勢を下げて慎重に進むぞ!
 踏み外したらそこまでだ……!」

 地鳴りに負けぬよう、シルバが精一杯の大声を上げた。
 冒険者たちはつかの間の正気を取り戻し、しゃがみ込むようにして着実に対岸へと近づいていく。

 対岸まで、あと少し。
 真っ白な悪夢の中に希望を見出したその瞬間。

「バォオオオオオオオオオ……!!」

 霧の中に何者かの咆哮が轟いた。

「なんですか、今のは!?」

「霧の中に、何かいるよ!」

 ホークが辺りの気配を探る。
 咆哮の主を見出そうとしたが、その試みは失敗に終わった。

(……違え、霧の中にいるんじゃねえ。
 ってことは、この霧そのものが……!!)

 タントは霧が一所に向かって流れていくのを感じた。
 やがて気配は集まり、凝縮し――、

「バァォオオオオオオオオオ!!!」

 それは、姿を現した。

 凝縮された霧の怪物。
 真っ白な体躯は見上げるほど大きい。

「……ハッ、まじかよ」

 タントは思わず渇いた笑いを浮かべた。
 島に来る前に感じた不穏な感覚は、あるいはこの怪物との邂逅を予期してのものだったのかもしれなかった。

 トカゲの体に角と翼。
 実物を見た者はわずかであるはずなのに、誰もが姿を知っているその怪物。

 ――ドラゴン。
 神話に謳われる英雄たちの天敵。
 遺跡の守護者であるその竜は、体と同じ真っ白な霧を纏いながら、『烈火と成る者たち』へ牙を向けてきた。

「走れェェ!!」

 タントが剣を抜きながら叫ぶ。
 他のメンバーを先に行かせ、自分は霧の竜へと相対する。

「セェアッ!!」

 気合一閃。
 霧の竜へと一撃を繰り出したタント。

 剣は竜の体を掠めた。
 霧を押し固めて作ったようなその体からは、血の代わりに白い靄が千切れて宙へ散った。

(剣で斬れねえことはねえ……。
 霧の怪物っつっても実体がないわけじゃねえみてえだな。
 しかしこの巨体だ、本当にダメージになってんだかどうだか……!)

「ギャオォオオオオオ!!!」

「くっ――!しまった!」

 竜がタントの横を掠めるように飛んでいく。
 霧で構成された体のためか、その動きは風に舞う雲のように軽やかだ。

「そっちに行ったぞ!気をつけろ!」

 ドラゴンはぐるりと体を翻し、一行の行く手を阻むように橋へと降り立った。

「前塞がれたッス!バックバック!」

 プリムラが担いでいた弓を構える。
 一矢竜の眉間目がけて射掛けるが、慌てていたためか矢は明後日の方向へと飛んで行った。

「……ッ――!やばっ――」

 竜が腕を振るう。
 力任せに薙ぎ払われた腕はプリムラの体を吹き飛ばすには十分な重さと速度だった。

「ゴフッ――!」

 プリムラの華奢な体が宙へ浮かんだ。
 肺の空気が抜け、視点は拠り所を失い、意識が暗転する。
 その体はそのまま橋から投げ出され――

「……ッ」

 遥か谷底へ落ちていくところだったが、辛うじてシルバがその体を抱きとめた。

「さっすがシルバ!かっこいい!クール!男前!!」

「いいから前を向けホーク!
 ……一撃で意識を奪われたようだな。あの腕には気をつけろ!」

「回復します――!
 シルバさん、プリムラさんをこちらへ!」

「プリムラちゃんは任せたわ、シルバさんユーフェちゃん!
 ホークくんは援護お願い!」

「っしゃ、任された!」

 ホークが槍を構える。
 くるりと空を切り、切っ先が鈍く輝き霧の怪物へと向けられた。

「そりゃ!」

 “入り”を見せない高速の踏み込みからの突き。
 狙うは竜の顔面だ。
 小柄なホークから見てかなり上に位置するその場所だったが、剣に倍する槍のリーチからは逃れられない。
 槍は竜の頬を貫き、また霧が舞う。

 ――しかし、浅い。
 槍はリーチこそ長いものの刀身が小さい分一撃の威力は剣に劣る。
 竜は一瞬怯んだものの、また豪腕を振り上げホークへと振り下ろそうとした。

「《鏃よ灯せ火焔よ驕れ、山辺を朱色に染め上げよ》」

 ――しかし、遅い。
 最初からホークの狙いは牽制だった。
 クラリスの手には【炎の矢】が準備されていた。

「《燃えろ》!!」

 火炎が翔る。
 クラリスの手から放たれた術は狙いを過たず竜の首元で爆発した。

「イギィイイイイイイイイイイイ!!?」

 ドラゴンから苦悶の声が上がる。

「かなり効いてるみたいだぜ!
 霧でできた体だから、火に弱いのかもな」

 タントが最前線に到達した。
 そのまま駆け抜け、相手が怯んだ隙に懐へと入り込む。

「食らえッ!!」

 右手に持った剣を振りかぶるように一閃。
 剣技も何もない大味な攻撃だったが獣相手には効果的だ。
 さらに右足で相手の傷口に抉りこむように前蹴りを叩きこむ。
 竜はその傷口から大量に霧を吹きだした。

「――とどめ!!」

 タントの攻撃は休まらない。
 竜は身をよじってタントの攻撃を避けようとするが、それを超える速度でタントは相手に肉薄する。
 右足が地面に着くのと同時に、今度は両手に持ち替えた剣で胴薙ぎを食らわせる。

 冒険者たちの間ではドラゴンの強みは三つあるといわれている。

 強大な膂力、魔力を帯びた息吹、そして何物をも通さない鋼の鱗である。
 本来竜の体は最高硬度の鱗で隙間なく覆われており、特殊な武器と強靭な戦士でなければ貫けないはずだった。

 しかし今『烈火と成る者たち』が相対しているのは、見た目こそドラゴンそのものだったが体は霧でできたドラゴンだ。
 タントの息も吐かせぬ連撃の前に、霧はただ散りゆくのみだった。

「ふう。一丁上がりだな。
 さ、橋が崩れねえうちに早く――」

「――危ない、タントくん!!」

 クラリスの鬼気迫る叫び声に、タントは反射的に頭を下げた。
 その頭の上を先ほどの豪腕よりいくらか小さくなった腕が通り過ぎる。

「……おいおいまじかよ」

 首がもげれば例外なく死に至る、というのがタントの世界の常識だった。
 しかし目の前の光景はそれを否定していた。

 タントによって散らされた竜は、その身を五つの小さな竜へと分けて『烈火と成る者たち』の行く手を阻んでいた。

「もうっ、しっつこいなあ!」

 ホークが槍を回して構えなおす。
 相手の大きさを鑑みて、持ち手の長さを変えたのだ。

「全部とやり合ってたらキリがないわ!」

「……やるならば真ん中の個体だ。ぼんやりとだが、あの先に対岸が見えた。
 時間がない、あいつを倒して一斉に駆け抜けるぞ」

 シルバが後方から指示を出す。

「集中攻撃ってわけだな……!!行くぜお前ら!!」

 タントを先頭に、五体のうちの真ん中の小竜にのみ攻撃を仕掛ける。
 先ほどの巨体であったころと比べスタミナがないのか、小竜はすぐに散り散りになった。

「――ッ!今だ、駆け込め!!」

 空いた隙間に一行は一斉に駆け込んだ。
 霧を抜け、元来た山頂へと飛びあがった。

「ハァ、ハァ……」

「追いかけて、こない、みたいね……」

 後方を見れば、霧は晴れたようで、竜の姿はなかった。
 もしかしたら霧の中でしか生きられない生物だったのかもしれない。

 なおも地鳴りは続いていた。
 衝撃は山頂にも伝わってきていた。
 白い霧が晴れた代わりに、辺りを土煙が覆う。

 やがて地滑りの音が谷底へと吸い込まれていく。
 教会のあった対岸は丸ごと崩れ去ったのかもしれない。
 土の煙幕が谷底へと降り尽くしたときには光の橋も、濃密な霧も、夢であったかのように消え去っていた。





 プリムラはユーフェがすぐに治療の術を使ったおかげか、すぐに意識を取り戻した。
 起きたら谷の対岸が丸ごと無くなっていて大層驚いていた。
 谷の崩壊のあと一行はすぐに引き上げることにした。

 船に乗りリューンへと向かう。
 半日ほどの間に大冒険が詰まっていた島での探索に比べ、帰りの道中は退屈なものだった。

 そして二週間後、『烈火と成る者たち』の姿はリューンの枯れ葉通り、「白鷲同盟」の屋敷にあった。

「おかえり冒険者諸君。
 ひと月ぶりか。少し日焼けをしたかな?」

 痩身で中性的な印象の男性。
 貴族らしく振舞いは上品で、しかし瞳には妖しげな光を宿している。
 依頼人ジャンピニ・アビシニャン・リュリは、出発前と変わらず安楽椅子に座ったまま冒険者たちを迎え入れた。

「そりゃあ一か月のうち半分は船の上にいたからな。
 あんたは相変わらずの出不精みてえだな」

「ふふっ、タント君も中身は相変わらずのようだね。
 貴族であり、依頼人でもある私にも清々しいくらいに失礼なその態度。
 ああ、口を慎めとは言わないよ?君はそれくらいがちょうどいい」

 依頼人はタントの軽口をにこやかに流した。
 さすがは貴族たちのクラブを仕切る長といったところか。

「それでそれで?早く地図をもらえるかい?
 それと是非とも君たちの冒険の話を聞かせてもらおう」

 リュリはまるで子供のようにはしゃいでいた。

「これをどうぞ」 

 クラリスが荷物袋に大事にしまっていた地図を手渡した。
 依頼人は受け取った地図をすぐさま広げてじっと眺めた。

「ほお、素晴らしい。
 抜けはないし何より正確だ。
 冒険者というのはガサツなものだと思っていたが、これは冒険者という人種への評価を改めねばならぬようだね。

 ――ところでこの山頂付近の記入はなんだね?
 これは……建造物か?」

「ええ、そうです」

 少し迷ったが、クラリスはすべて話しておくべきだと判断した。

 無人島にあった光の橋。
 隠匿されし謎の教会。
 そして『烈火と成る者たち』を襲った霧の中の怪物。
 すべては土砂崩れの中へ消えてしまったことだ。
 今となっては何の証拠もない。

 しかしこの依頼人はリューンきっての学者である。
 教会の棺に刻まれていたイゴリアス・トッドという神父の名に関しても何か知っているかもしれない。

「興味深い」

 話を聞き終えたリュリは大きく息を吐いた。
 感想自体は端的だったが、彼の好奇心を刺激するには十分な内容だったようだ。

 彼は安楽椅子への肘掛へ頬杖をついて何かを思案する。
 そしてまるで探偵が真相を語るかのように徐に口を開いた。

「――教会があり神父がいたからには何かの教会がそこにあったのだろうよ。
 果たしてそれが聖北のものであるかは分からんがね。
 ……となると、海図の違和感にも説明がつくな。
 海図の矛盾は偶然じゃない。あの島は意図的に隠されていたというわけだ。

 よろしい、私の方でも調べておこう。
 ふふふ、久しぶりの新しいおもちゃだ。
 すぐに平らげるのは容易だがそれでは趣がないからね」

 そういうとリュリはポンポンと二回手を叩いた。
 すると本棚の上から麻袋を咥えた黒猫が飛び降りてきた。
 黒猫は依頼人に麻袋を渡すと冒険者たちを一瞥した。
 しかし興味がなかったようで、すぐに視線を外して一度だけ欠伸をして自らの縄張りへと帰っていった。

「謝礼だ。採取物の分は少し色を付けておいた。
 ひと月もの間ご苦労だったな。
 ゆっくり休んでくれたまえ」

 クラリスが麻袋を受け取った。
 ずっしりとしたその感触に、長かった今回の依頼が報われた実感を感じとった。





 後日談、ではなくその日の夕方の話。

 ひと月ぶりに紳士の祝杯亭へと帰還した『烈火と成る者たち』は、親父への挨拶もほどほどに早速持ち帰った宝を検分してみることにした。
 遺跡の財宝は土砂崩れで失われてしまったが、換金すれば相当になるであろう量の財宝を持ち帰ることに成功していた。

「なん……だと……!?」

 しかし現実は甘くなかった。
 ポケット一杯に詰まっていた金銀財宝はただの石くれへと変わっていた。

 財宝を持ち出せないよう何か仕掛けがしてあったのかもしれない、というのはクラリスの推理だった。

「そう簡単に一攫千金はできないってことッスね!」

「骨折り損のくたびれ儲けですね……。
 なんでプリムラさんは落ち込んでないんですか」

「ふふふー、そりゃあ勿論……」

 プリムラは立ち上がってビールの注がれた杯を構えた。

「みんなで冒険、楽しかったッスから!!」

 プリムラの満面の笑みに少しだけ心が救われた一行は、掲げられたプリムラの杯にそれぞれの杯をぶつけた。





【あとがき】
 小柴さんの作品「リューン枯れ葉通り」をお借りしました。
 一年と二か月ぶりの更新となりました。ファイル作成日を見てびっくり。
 しかし大好きな原作だったので楽しく書けました!

 小柴さんと言えば寝るサクのGuillotineでご存知の方も多いかもしれません。
 絵も描けるしシナリオも作れるという万能なお方です。
 今回リプレイしたのは探索パートでしたが、リューン枯れ葉通りも買い物も冒険もできる万能シナリオです。
 スキルは超かっこいいし隠し要素なんかもあり何度も通えるシナリオですので、すでにプレイされてる方も再プレイしてみてはいかがでしょうか。

 アイテム&報酬いっぱい貰いましたぜー!
 お買い物行くのじゃあああ!

今回の入手品→
報酬800sp+80sp
仮面代-100sp
アイテム【仮面】→売却→50sp
アイテム【魔素解析学】
アイテム【虫眼鏡】
アイテム【蜥蜴の涙】
アイテム【錆びた剣】→売却→500sp
アイテム【蝶花の種子】×3→売却→30sp
アイテム【ダグルグミ】
アイテム【タセルツリー】
アイテム【オンクーの芽】

 ・・・・・・・・・銀貨袋の中身 【3210sp】

著作権情報…
 「リューン枯れ葉通り」→小柴様「リューン枯れ葉通り」より。著作権は小柴様にあります。
 「炎の矢」→飛魚様「武闘都市エラン」より。著作権は飛魚様にあります。
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